作品名「宇宙音楽ホール設計図」

Space Music Hall Design

STORY

 ”宇宙で” 音楽を奏でる・鑑賞する。 

 私がこの空想に取りつかれたのは2022年のことだった。 

 これは人類文化の次なる挑戦である。

 人類は新大陸への進出、社会文化の発展に伴って様々な音楽を生み出してきた。
 宇宙という新たなステージに至った人類は、どのような音を奏でるのだろうか。

 あれから約20年。私は今、その答えを目の前にしている。

 そう、今日が――
 ――人類初の宇宙コンサートなのだ!

 チケットを手に握りしめ、宙を漂いながら宇宙ステーション内を移動している。
 
 少し狭くなったドッキングポートを通り抜け、音響ブースにいる案内係にチケットを渡す。
 円筒形の壁に設置された手すりを上手く使って客席まで移動する。

 前を見るとアーティストが楽器を手に、上演開始を待っている。

 ステージ奥、ガラス窓の蓋が開かれた。青く、まぶしい光が突き刺さってくる。

 音の芸術と共に、母なる地球と相対した時。あなたは何を思うだろうか。

CONCEPT

 近年、宇宙はどんどんと身近なものになってきている。2021年12月には、日本の民間人として初めて前澤氏が一週間の国際宇宙ステーション滞在を行った。今はまだ限られた人しか滞在することが出来ない宇宙ステーションだが、いつかは民間でも気軽に旅行出来るような時代がやってくるだろう。米国等では民間企業による観光用宇宙ステーションの建設計画も進んでおり、今後数十年の間に、より多くの人が観光や今までにないミッションのために軌道上に滞在するようになることは想像に難くない。
 そんな宇宙生活において、放射線や宇宙デブリ、閉鎖環境、限られた人間関係等多くのストレスを解消して心を癒す、娯楽や文化活動のための施設が必要となるのではないか。そこで我々は、様々な娯楽の中で最も普遍的であると考えられる音楽に着目し、宇宙用の音楽ホールを設計した。
 設計において重視したのは「宇宙空間の特性を利用すること」である。娯楽・文化施設を作る上で、宇宙空間には、以下の二つの重要な特性があると我々は考えた。

  • 微小重力環境である
  • 地球を眺めることが出来る

 これらの特性を生かして、地上とは全く異なる音楽鑑賞体験を作り上げることで、大きなエンターテインメント性を与えることができる。重力から解放された自由な姿勢・空間において、ホールの天窓から覗く母なる地球と相対することは、参加者に大きな感動を与える。そして、その感動はやがて、自らの魂が天上の旋律を携え宇宙空間に飛翔するイメージを喚起させ、この地球上では決して味わうことのできない至福感をもたらすのである。

ミッションシーケンス
宇宙音楽ホールが大型ロケットによって地上から打ち上げられ、宇宙ステーションとドッキングして設営、上演を開始するまで。

ロケット搭載図
宇宙音楽ホールモジュールがロケットにおさめられている様子。打ち上げ時のロケットの激しい振動を受け流し、耐えきれるよう設計した。

全体三面図
宇宙音楽ホールは直径約7.5m、高さ約8mの円筒形を基本としている。

分解図
ホールには音楽関連の機器や大窓に加え、宇宙用モジュールとして必須である、室温や空気組成を調節するための機能が備え付けられている。

機器配置図
音楽機材、環境調整機材、通信機材、非常用機材などはステーション側の面に備え付けられる3つの扇形ラックに収納される。また、ラックの側に音響や光の調節を行うPAブースを置く。

コンポーネント寸法
各コンポーネントは構造の要求、性能の要求(騒音や環境調節機能など)を満たしつつ、人の空間を確保するように設計・配置されている。

構造設計(SIDE,-TAR面)
側面は宇宙デブリ防護のためのハニカム構造、及びデブリバンパが備え付けられる。また、打ち上げ時に荷重を受け持つステーション側の面には補強材が放射状に備え付けられる。

構造設計(+TAR面)
地球側の面には錐台形の構造をベースに、六角形の窓を組み合わせた大窓が取り付けられている。窓を分割し、一枚当たりにかかる空気圧を小さくすることで、強く軽い構造にしている。

熱設計思想
モジュール全体を断熱材で覆いつつ、窓からの入放熱や機器の排熱を冷却水ループによる熱の輸送により処理している。

熱系統図
冷却水ループは低温ループ・中温ループの二系統からなる。低温ループではキャビンエアを冷却・除湿する。中温ループでは機器の冷却を行う。

空気系・騒音設計
空気を澱ませないために、モジュール内で空気の循環を発生させる。その時に生じるファン騒音が音楽の邪魔にならないよう、適切に防音材を配置した

耐デブリ設計
宇宙デブリ防護のため、側面及びガラス窓にデブリバンパ、デブリシールドを配置した。

安全管理・避難設計
ハザード時の避難のため、ハッチの大きさや手摺の配置等を適切に定めた。

客席設計
微小重力を活かし、円周状に客席を配置した。劇場を参考に、客席を直径を変えた二段構成にすることで後方の観客の視界を確保した。

演奏空間設計
地球を背景に音楽を鑑賞できるよう、演奏空間は地球側の面に配置した。アンプやスピーカを組み込んだ台の上には演奏者が足を固定するための手摺が多数配置されている。演奏機器やステージセットは組み換え可能であり、様々な演奏形態が楽しめる。

通信・マネタイズ設計
地上の人々も宇宙に思いを馳せながらライブ・コンサートに遠隔参加できるよう、地上に演奏を配信するための通信系を設計した。また、運用時のマネタイズ方法についても検討した。

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